各種のフィードホーンの得失について
JA1EPK 大日方 悟朗

マイクロウエーブで使われるアンテナはパラボラ型アンテナが殆どですが、其れに電波を吹き付けるフィードホーンとしては円筒を切っただけの簡単な物(茶筒形)や此れにメガホンの様に広がりを付けた円錐型の物、チョークリングを付けた物、または矩形導波管の先を広げたピラミッド型が有り、また最近良く耳にするデユアルモード ホーン等が有ります。
これらのホーンにはそれぞれ適応するパラボラのF/D比が決まっているのですが良く知られていない様で、組み合わせを間違うと思った程のゲインが得られない事になりますので、ホーンの形と其れに対応するパラボラのF/D比について書いて見ました。
ここで引用した各種のデーターは殆どPaul Wade W1GHZ(ex-N1BWT)のOnline Microwave Antenna Book [URL:<http://www.qsl.net/n1bwt/preface.htm>]から引用した物である事をお断りしておきます。
W1GHZは各種のアンテナについて非常に詳しく解析をしていますので興味のある方は是非お読みになる事をお勧めします。この中でホーンの水平、垂直放射パターンをNECやPhysical Opticsと言うソフトを使ってシュミレーションしています。またDish FeedやFeed Pat等のプログラムを使って最適なF/D比を算出しています。更に彼はホーン、デイッシュ、レンズアンテナ設計の為のHDL-ANTと言うプログラムをアップロードしていますのでダウンする事をお勧めします。

始めに
フィードホーンから出た電波はパラボラ面を一様な強さで照射する事が理想ですが、実際には中心部に比べて外周(エッジ)へ行く電波は色々な理由で弱くなります、また外周を外れた電波はロスになります(スピルオーバー)、エッジへ行く電波が強くなる様なホーンを使うと此のロスも多くなりますのでフィードホーンを設計する時、ホーンの放射パターンはパラボラのエッジで中心より10dB下がる様に設定します、以下各種ホーンに就いて述べてみます

1 コーヒー缶型フィードホーン
コーヒー缶型フィードホーンとはお茶筒の様に一方が塞がった円筒型か円形導波管の開口面からパラボラに電波を照射する物で、放射器としてはもっとも簡単に自作出来るので多くのアマチュアに愛用されています。
このフィードの放射角は円筒の直径によって決まります。良く使われる直径が0.75λの物はF/D比が0.35前後のパラボラにマッチすると言われています。このホーンの位相中心はほぼ開口面に有りますのでパラボラの焦点に開口面が来るように設置します。
F/D比に適合するホーンの直径を計算する為にはホーンの放射パターンを知らなければなりませんが、この形のホーンでは垂直面と水平面のパターンがかなり違う為確実なデーターが有りません。
只円形導波管の性質から標準モードのTE11モードでは直径が0.59λ以下はカットオフになって使用できません。幾つかの実験結果からカットオフに近い0.6λのホーンはF/D比が0.25から0.3のパラボラにマッチします。
また0.76λ以上になると次のモードであるTE01モードが発生しますが、此れに近い0.86λではF/D比が0.4にマッチします、更にこれ以上の0.95λのホーンでは垂直面の指向性が中心から外れて大きく効率を悪化させています。
従ってこれらの実験結果からこのタイプのホーンは直径が0.6λから0.9λの範囲で使用出来、F/D比では0.25から0.4までのパラボラで使うのが良い事が分かります。
ホーンの長さはクリチカルでは有りませんが、プローブから放射された電波の位相が揃って放射される為には少なくとも管内波長で1波長は必要です。この管内波長は周波数が同じでもホーンの直径によって違いますので注意が必要です。
プローブの位置と長さはホーンまたは導波管のインピーダンスが直径と長さによって変わる為計算で出す事は難しくSWRを測定して実験的に決めなければなりません。
このホーンの欠点は前に書いた様に垂直面と水平面の位相中心が異なる事で、同じホーンを使っても垂直偏波で使うか水平偏波で使うかによって焦点からの位置が違ってきます。また開口面の縁を回って外に漏れ出す電波の為フロントバック比が悪く15dB又はそれ以下にもなります、更にサイドローブも大きく全体として効率を下げています。
この様にこの形のホーンは構造が簡単なので良く使われますがパラボラの持つ効率を最大に発揮させるには今一つ物足りません

2 チョークフランジ付きコーヒー缶型ホーン(WA9HUV)
この欠点を除く為にWA9HUVは0.76λのホーンの外側に直径2λのチョークフランジを開口面から0.27λ下がった所に取付けました。
この結果垂直面と水平面の特性は略同じ様になり、効率も10%程改善されました。

3 VE4MA型スカラーリング付きフィードホーン

更にこの点を改良した物にVE4ME型スカラーリング付きフィードホーンが有ります。此れは円筒形ホーンの開口面の外側に漏れ出す電波を阻止する為にチョークフランジの代わりにトラップリングを付けた物で、其の大きさは約1/2λ幅、1/2λ深さに取られています。このリングはQが小さくチョークフランジよりもクリチカルでは有りません。VE4MEのデーターによるとホーンの開口面からリングの底までの距離を変えるだけでF/D比が0.3から0.5と広い範囲のパラボラに一つの内径のホーンで対応出来る事や、最大ゲインの位置や最良のS/Nを得る位置を選べる事も大きな特徴です。このホーンは多くのアマチュアによって色々な周波数にスケールアップ又はスケールダウンされて使われています。このスカラーリング付きホーンは多くのマイクロウエーブEME局にも愛用されています。
一例としてチョークリングを開口面から0.34λに置いた時F/D比0.33にマッチしていました。又開口面と同じ位置に置いた時は0.42に、更に開口面から0.025λ突き出した時はF/D比0.5のパラボラにマッチすると言うデーターが有ります。

4 Chaparral フィードホーン
前述の一つのチョークリングの代わりに幾つかのリングを重ねて取り付けたホーンがWohllebenによって発表されました。このリングの間隔はクリチカルでは有りませんが、深さは1/4λより僅かに長く取られます、このホーンはCバンドやXバンドTVRO 用としてChaparralによって使われた為Chaprral Feedと呼ばれています。
日本でもジャンクで見かけられますがアマチュアバンドで使うには仕様が分からないので敬遠されている様です。一例として内径0.76λのホーンの開口面から0.26λ後に取り付けた物はF/D比が0.35から0.4にマッチし、開口面と同一面に置いた物は更にゲインが上昇し0.45λにマッチしていると言うデーターが有ります。更にこのバリエーションに就いて前述のAntenna Bookに幾つかの報告が有りますので詳しくは其れを見て下さい。

5 コニカル(円錐型)フィードホーン
1で述べた円径導波管や茶筒型フィードホーンは比較的小さなF/Dのパラボラにマッチしますが、大きなF/D比のパラボラに合わせる為に円筒の内径を大きくするとTE11以外の不要なモードが発生して放射パターンを歪ませます。
内径をメガホンの様に次第に広げて行き円錐型のホーンとすると、この不要なモードの発生を押えて奇麗なパターンにする事が出来ます。
この円錐の開口面の大きさ(直径)と軸方向の長さ(円錐の頂点迄の高さ)によって垂直面、水平面のパターンが決まります、この場合円錐型アンテナと違う所はゲインを問題にするのでなく、前に書いた様にパラボラの外周における強さが中心部より−10dBになるような寸法を選ぶ事に有ります。
この寸法を計算する為にはNECではかなりの時間が必要なようでW1GHZはここではPhysical Opticsを使ってシュミレーションしています。
例として開口面直径が1.88λで広がり角が58度のホーンはF/D比が0.7から0.8のパラボラにマッチします。同様に1.33λ、30度では0.6に、1.3λ、120度では0.4から0.6に、1.3λ、45度では0.6に、同じく1.3λ、60度が0.58に、1.3λ、90度で0.55にマッチしています。

6 ピラミッド型(矩形形)フィードホーン

矩形形導波管は其の優れたローロス特性の為に古くからマイクロウエーブで使われて来ましたのでC-バンドやX-バンドのジャンクは何処でも見かけられる様です。
円筒型と同様に最も簡単なホーンは矩形導波管を切りっぱなしにした物です。W1GHZがPhysical Opticsを使ったシュミレーションによるとF/D比では0.25から0.3くらいの深いパラボラにマッチしますが、垂直面特性と水平面特性は非常にかけ離れている上に貧弱なF/B比の為に効率が悪くなっています。
此れに1.3λ角の開口面を持つスカートを付けた所0.6から0.75のF/D比にマッチする様になりましたが、垂直面と水平面特性にまだ差が有り此れを調整しなければなりません。
G3PHEは1975年3月号のRadio Communication誌にF/D比に応じたピラミッド型フィードホーンのチャートを発表しました。このデーターはF/D比が0.3から1.1迄のパラボラに対応するホーンの寸法を見つける事が出来ます。W1GHZも彼のHDL-ANTの中でこのデーターを元にして計算をしています。
MWACANTのカセグレンアンテナの項ではこのデーターに基いて各部の寸法が算出出来ます。

7 デユアルモード フィードホーン
今まで述べてきた様にホーンの要素として挙げた垂直面と水平面のパターンの同一性や、開口面の縁から漏れ出す電波を最小にする事を考えて設計しなければなりませんが、ホーンの中を伝わる二つのモードによって此れをクリヤーした物にデユアルモード ホーンが有ります。
このホーンは1967年にR.H.TurrinがIEEEに発表した物ですがその後W2IMUが1296MHzで使い始めたのでW2IMUホーンとも言われています。以後色々な周波数にスケールダウンして使われています。
このホーンはコニカルホーンの先に更に円筒を付けた様な形をしています。小さい方の円筒は円形導波管の基本モードであるTE11モードのみが伝わる様に内径が選ばれています。また大きい方の内径はTM11モードが伝わる様に0.92λから1.915λの間に選ばれます。この大きい方の円筒にはTM11モードだけではなく元のTE11モードの電波も同時に伝わりますが、両者の大きさを適当な配分が出来る様に円錐部分が設けられています。
TM11モードの電波はこの円錐と大きい円筒の接続点に発生し、其の点でTE11モードの電波と90度の位相差が有ります。この二つの電波は管内波長が違う為夫々の速度で円筒内を進みますからある点で位相が一致する所が出てきます。大きい円筒の長さは丁度この長さになっていますからこの位相を持った電波がパラボラに吹き付けられる事になります。
この電波は円筒の中心部分に集まっていて円筒の外周には殆ど存在しません、この為円筒の縁を回って外側に流れ出す電波が有りません、また垂直面と水平面のパターンが殆ど同じになって効率を上げている特徴も有ります。
この様に色々な点で優れているフィードホーンですが、W2IMUが発表した物はTurrinの発表したデーターの内大きい方の内径が1.31λの物で此れはパラボラの開口角が90度、F/D比で0.6近辺にしか適用できません、しかしTurrinの今一つのデーターは内径が1.86λの物で此れは開口角70度、F/D比で0.8にマッチします、Turrinは計算式を発表してますので其れを使えばF/D比で0.5から0.8位迄のホーンの計算が出来ます、ちなみにHDL-ANTの最新版ではこの計算が出来るようになりました。

終わりに
これらのホーンの内円筒型ホーンやピラミッド型ホーンの計算はMWACANTで出来ますがコニカルホーンやデユアルモードホーンにについてもウインドウズ上で計算出来るプログラム(HORNCALCU.EXE)を作りましたので興味のある方はご連絡下さい。
以上

付録
導波管内を伝わる電波の姿態(モード)について

周囲を導体で囲まれた矩形や円筒型のパイプの中を電波が効率よく伝わる事は良く知られていますが、其れがどんな形(モード)で伝わって行くのかに就いての解説は専門的な物が多く分かり難いと言う事でとかく敬遠される様です。しかしフィードホーンの動作を理解するのには基本的な幾つかのモードに就いて知っていた方が良いのでは無いかと思い書いて見ました。
始めにプローブから導波管内に放射された電波はあらゆる方向に向かって進み始めますが導波管の壁に当たって反射を繰り返しながら進む内に位相の合った電波は強められ、逆位相の場合は打ち消されて結局残る物は特定の角度と形(電界強度の分布状態、此れをモードと呼んでいます)の物だけになってしまいます。この状態になるのはプローブから管内波長で1波長以上進んだ所からと言われており、フィードホーンの導波管部分の長さもこれ以上を選ぶ事が望ましい様です。
このモードは一つだけではなく導波管の寸法と周波数の関係で種々なモードが発生します。この為フィードホーンの寸法によってはホーンから放射された電波がパラボラ面を有効に照射しない場合が有り、思った程のゲインが得られない事になります(茶筒型ホーンの長さが短い場合や内径が大きすぎる場合)。
また逆に二つのモードが共存する事を利用してフロントバックレシオやサイドローブを押えて放射パターンを改善したもの(デユアルモードホーン)等が有ります。
矩形導波管の中を伝わる電波の基本的なモードは第1図の様な物です。導波管の広い面の中心部分では電圧が高く、側面に行くに従って低くなって管壁ではゼロになります(此の様に山が1つだけ存在する物を1で表す)。また狭い面ではどの点を取っても同じ電圧になっています(0で表示します)。此れをTE10モードと言います。
円筒型導波管では第2図の様に水平面では矩形導波管と同じ様な分布をしていますが(1)、垂直面でも中央部の電圧が高くなる(1)TE11モードになります。電波の進行方向では矩形形のTE10モードや円筒型導波管のTE11モード共第3図の様な分布を持っています。
この様なモードで電波が伝わって行く為には波長に対する導波管の寸法にある範囲が有ります。矩形導波管では規格で決められていますので其れに従えば何も考えずにTE10モードを使う事になりますが、円形導波管では直径が0.6〜0.8波長の時のみTE11モードになり、これ以下の時はカットオフとなって電波は伝わらず、これ以上の時は他のモードが発生し、条件に応じて基本モードと共存しますがホーンの寸法を決める時この事はあまり考慮されていない様です。
直径が0.92波長から1.915波長の範囲になった時第4図の様なTM11モードが発生します。このモードとTE11モードが共存する時両方の位相が合った時は右図の様に中心部で強め合いますが外周部では打ち消し有って電波が存在しません。この為円筒の縁を回って外側に流れ出す電波が無くフロントバックレシオが向上すると共に不要なサイドローブの発生も有りません。また垂直面と水平面のパターンが殆ど同じになって効率を上げる特徴も有ります。
この状態を作り出す為に考えられた物がデユアルモードホーンです。このホーンはコニカルホーンの先に更に円筒を付けた様な形をしています。小さい方の円筒は円形導波管の基本モードであるTE11モードのみが伝わる様に内径が選ばれています。また大きい方の内径はTM11モードが伝わる様に選ばれます。この大きい方の円筒にはTM11モードだけではなく元のTE11モードの電波も同時に伝わりますが、両者の大きさを適当な配分が出来る様に円錐部分が設けられています。
TM11モードの電波はこの円錐と大きい円筒の接続点に発生し、其の点でTE11モードの電波と90度の位相差が有ります。この二つの電波は管内波長が違う為夫々の速度で円筒内を進みますからある点で位相が一致する所が出てきます。大きい円筒の長さは丁度この長さになっていますからこの位相を持った電波がパラボラに吹き付けられる事になります。
以上で基本モードであるTE10モード、TE11モード、TM11モードの3モードに就いて書いて見ましたがこれ以外のモードは殆ど使われませんので省略します。
以上